創作工房

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 人が住めない土地。

 

 魔物に奪われた大地の果て。

 

 そこに魔王の城があった。

 

 その城に辿り着いた、1人の青年。

 

 彼は幼い頃、この土地に住んでいた。

 

 そして、魔王たちによって奪われて以来、南の土地で暮らしていた。

 

 長年の鍛錬の末、彼は魔物と対等に戦える力を手に入れた。

 

 全ては奪われた時を取り返す為に。

 

 彼には両親がいた。

 

 幼馴染がいた。

 

 彼と同じく、土地を奪われた仲間たちがいた。

 

 その期待を背負い、遂に魔王の城まで辿り着く。

 

 城の中には魔王の側近と思わしき、強力な魔物がいた。

 

 どれも一筋縄とは行かなかったが、ここまで辿り着いた彼にとって、勝てない敵ではなかった。

 

 側近の魔物との闘いの中、彼はふとして既視感に襲われた。

 

 だが、その感覚をすぐに振り払い、魔物を打ち倒す。

 

 そして、最後の魔物を打ち倒し、魔王の間へと足を踏み入れた。

 

『案外…早かったな…』

 

 玉座に腰掛ける魔王。

 

『もう少し…時間がかかるかと思ったぞ…』

 

 彼に魔王と交わす言葉は無い。

 

 魔王との距離はおよそ30メートル。

 

 鍛え抜いた彼ならば、一瞬でその距離を詰めることが出来た。

 

『まぁ、待て』

 

 今にも斬りかかろうとした彼を片手を上げ、制する魔王。

 

『お前は何の為に戦う?』

 

 戦う理由。

 

 それはただ1つ。

 

 この地を奪い返すこと。

 

『この戦いが終わったら何をする?』

 

 まるで彼の心を読んだかの様に魔王が続ける。

 

『お前が育った村に戻り、平穏に暮らすか?』

 

 彼の脳裏に南の土地にある、育った村の景色がよぎる。

 

『それとも我を打ち倒し、この地を再び人の地とするか?』

 

 そう、それこそが彼の目的。

 

 彼の剣を握る手に力が入る。

 

『なるほど…。お前1人でか?』

 

 魔王のその言葉に彼は一瞬の迷いが生じた。

 

『お前の帰りを待つ者はもういない』

 

 30メートルの距離を一瞬でゼロにして、彼は玉座に腰掛ける魔王に斬りかかった。

 

 だが、剣は空の玉座だけを斬り捨てる。

 

 彼の背後、およそ30メートルのところに佇む魔王。

 

『勘違いするな。手を下したのは我では無い』

 

 今の彼に魔王の言葉は入ってこない。

 

 剣を構え、再び魔王へ斬りかかるタイミングを見計らう。

 

『手を下したのはお前だ』

 

 一瞬、思考が止まる。

 

 しかし、思考を乱す嘘と彼は判断する。

 

『この城に入って、何体の魔物を倒した?』

 

 音を置き去りに、斬りかかる彼の一撃を魔王は苦も無く躱す。

 

『その魔物に…見覚えは無かったか…?』

 

 その一言に彼はハッとした。

 

 そして、一瞬の隙に振るっていた剣は弾かれ、遠く離れた壁に突き刺さる。

 

『お前が城に入って最初に倒したのはお前の村の長だった』

 

 剣を失っても彼の戦意は衰えない。

 

 ここに辿り着くまで、剣が通じない魔物はいた。

 

『大きな時計のある広間にいた、小さくて複数体のは村の子供たちだった』

 

 拳を握り、魔王との距離を詰める。

 

 剣が無くとも魔物たちと戦えるように、と鍛えた拳を振るう。

 

『本棚だらけの部屋の2体はお前の両親だった』

 

 大木を割る拳は無駄なく魔王に向かって放たれる。

 

 しかし、風に揺れる柳の様に魔王には当たらない。

 

『そしてこの部屋の前にいた魔物』

 

 魔王は懐に手を入れる。

 

『お前の幼馴染だ』

 

 そして、懐から彼がとても見覚えのあるリボンを取り出した。

 

 それは彼の幼馴染が付けていたリボン。

 

『見覚えがあるだろう?』

 

 それは彼の心の折るのに十分だった。

 

 彼の拳が緩んだ隙。

 

 魔王はそれを見逃さない。

 

 一瞬で彼の首を捕らえる。

 

 そして。

 

―――

 

 彼の冒険はここで終わり。

 

 玉座に座った魔王。

 

 鼻歌を歌いながら、魔王は彼の頭を撫でた。

 

 首だけとなった彼の頭を。