創作工房

創作のストーリーなど適当に置いてます。無断使用は一切禁止です

■宇宙移住

 数百年後の未来。

 人類は地球以外の、新たな生活の基礎となる惑星を求め、

 選ばれた数百人の人類を数百光年先にある、地球に似た惑星へと送った。

 

 数百光年の道のりは人間の寿命よりも長く、

 選ばれた数百人の人類はその複数のコミュニティを築き、

 コミュニティ間で交配することで近親交配に起因した遺伝子病を防いでいた。

 

 そして、地球を経って数百年が経過した時、

 2~3世代前から謎の疫病が蔓延し始める。

 

 彼らの乗る宇宙船は様々な事態を想定されており、

 潔癖とも言える殺菌システムにより風邪1つ蔓延することが無かった。

 

 そんな中で生じた疫病に彼らは混乱した。

 

 地球を知る世代はとうの昔に天寿を全うし、

 宇宙船にいるのは宇宙船しか知らない世代だけ。

 

 つまり、病気と言う概念を誰1人経験したことがなかったのだ。

 

 蔓延する疫病に知識も経験も有さない人々はコミュニティ同士対立し、

 狭い宇宙船内でいがみ合い、いつの日かコミュニティ同士の殺し合いに発展した。

 

 そんな宇宙船には立ち入り禁止のエリアがあった。

 しかしある日、1人の少女がその中へと入ってしまう。

 そこには冷凍保存された1人の男がいた。

 

 男の容姿はお世辞にも良いとは言えず、

 人によっては嫌悪感すら抱くものだった。

 

 その男の話しは瞬く間に宇宙船全体に伝わり、

 多くの人がその存在に疑問を抱いた。

 

 しかし、疑問に抱くもコミュニティ同士の殺し合いは収まらない。

 

 複数あったコミュニティが次々となくなり、数百人いた人口も激減。

 しかし、疫病は蔓延し続けたことに人々は殺し合った自らの愚かさを悔やんだ。

 

 そして、このままでは新しい星に着く前に全滅を免れないと悟る。

 

 そこで彼らは冷凍保存された男を起こした。

 

 目を覚ました男は彼らの状況をすぐに理解し、

 蔓延する疫病が近親交配によるものだと見抜いた。

 

 幾ら複数のコミュニティに分かれたとしても、

 数百年も交配を続けていくことで結果、近親交配が起きてしまう。

 

 そして、無菌に近い環境だからこそ、

 些細なことで近親交配を起因による遺伝子疾患が起きてしまう。

 

 それが殺し合いにまで発展した原因の正体だった。

 

 冷凍保存されていた男は遺伝子や病理に精通した学者であり、

 彼自身、健康な成人男性であった。

 

 また彼と一緒に複数の精子卵子も冷凍保存されており、

 近親交配による遺伝子病が蔓延した時に備えていたのだ。

 

 そして、冷凍保存されていた男により、

 新たな種子を得ることで近親交配を原因とした疫病から彼らは解放された。

 

 男は本来近親交配による遺伝子病を抑止する為に冷凍保存されていたが、

 男自身は新しい星を見たいが為に冷凍保存されることを自ら望んだ。

 

 男は新しい星に着いたら起こす様に、

 またそれまでこの部屋は立ち入り禁止であることだけを告げ、

  全てが終わると男は再び冷凍保存に就いた。

 

 新たな星に辿り着くまで残り数百年。

 

 人類の可能性を乗せた宇宙船は暗い宇宙の中を進んでいく。

近未来の日本。

主だった諸外国と交流を深め、国際的となった日本では、

それに伴って、麻薬や持ち込み禁止の銃火器類の密輸入から、

日本国内で凶悪犯罪が多発していた。

 

これに対処するべく特殊部隊が設立され日夜、

凶悪犯罪との激しい戦いが繰り広げられた。

 

ある日、特殊部隊がとある武装強盗団のアジトを強襲。

これにより強盗団を壊滅に至るも、その場で1人の少女を保護した。

少女は記憶が無く、何故強盗団のアジトにいたのかは勿論、

少女自身、自分が何者なのかも分からなかった。

 

扱いに困った特殊部隊の面々だったが、

彼らをまとめる本部長の指示で少女は特殊部隊の元で保護することとなった。

 

彼らはその仕事柄、恨みを買うことが多く、

不意の襲撃を受けない為にも専用の装甲トレーラーを詰所とし、

事件が起きるとこのトレーラーごと現場へ駆け付けた。

 

結果、少女も事件が起きる度に彼らと共に事件現場へと向かい、

時には銃弾飛び交う最前線に1人、トレーラーでお留守番と言うこともあった。

 

初めは何も分からず、内向気味だった少女も、

特殊部隊の面々と触れ合うことで少しずつ心を開き始める。

 

また特殊部隊の面々も少女が癒しとなった。

 

そして、少女は次第に記憶を取り戻し、

過去からタイムスリップして来たことが判明する。

 

しかし、何故この時代に来たのか。

また少女を元の時代に返す方法は無く、

少女自身、元の時代に帰る意志も無かった。

 

そんなある日、とあるテロリストが発電所を占拠する事件が発生。

特殊部隊の彼らはすぐに急行し、迅速にテロリストを殲滅する。

しかし、テロリストによって発電機構が暴走。

このままでは爆発し、特殊部隊は勿論、

周囲の街々を巻き込んで、多数の死者が出てしまう。

 

その時、暴走した発電機構から漏れたエネルギーが空間を裂き、

少女がやって来た過去と繋がった。

 

特殊部隊の彼らは少女を過去に戻る様に伝える。

 

しかし、これを少女は拒否。

 

実は少女自身、元の世界で生きる目的を見失い、

ある日、自ら命を捨てる決断をした。

 

しかし、偶然にも近くで行われていた、

新しい発電機構の実験で生じた時空の亀裂が発生。

少女はそれに呑み込まれ、未来へとタイムスリップしていた。

 

元の時代に戻っても生きる理由と言う少女は、

特殊部隊の彼らと共に死ぬことを望んだ。

 

だが、そんな少女に彼らは望みを託した。

 

どうしても死ぬしかない状況。

それを少女が過去に戻り、未来を変えて欲しい、と。

 

彼らのその願いを少女を聞き、意を決して過去へ戻った。

 

元の時代に戻った少女はいずれ起きる事件に備え、

そして、未来で死ぬ運命が定められた特殊部隊の彼らを救う為、必死に毎日を生きた。

 

一方、少女が過去へ戻った未来では、

特殊部隊の面々が爆発間近の発電所内でその時を待っていた。

 

自らが死ぬ運命が変わらないなら仕方ない、と。

そう思い、受け止めた時。

 

彼らをまとめる本部長が現れる。

本部長は焦る様子も無く、発電機構の暴走を止め、特殊部隊の彼らを救った。

 

そう、彼らをまとめる本部長こそ、

過去に戻り、未来を変える為に努力した少女自身だった。

 

こうして死ぬ運命から助けられた彼らは、

成長した少女と共にその後も凶悪犯罪と戦い続けた。

 人が住めない土地。

 

 魔物に奪われた大地の果て。

 

 そこに魔王の城があった。

 

 その城に辿り着いた、1人の青年。

 

 彼は幼い頃、この土地に住んでいた。

 

 そして、魔王たちによって奪われて以来、南の土地で暮らしていた。

 

 長年の鍛錬の末、彼は魔物と対等に戦える力を手に入れた。

 

 全ては奪われた時を取り返す為に。

 

 彼には両親がいた。

 

 幼馴染がいた。

 

 彼と同じく、土地を奪われた仲間たちがいた。

 

 その期待を背負い、遂に魔王の城まで辿り着く。

 

 城の中には魔王の側近と思わしき、強力な魔物がいた。

 

 どれも一筋縄とは行かなかったが、ここまで辿り着いた彼にとって、勝てない敵ではなかった。

 

 側近の魔物との闘いの中、彼はふとして既視感に襲われた。

 

 だが、その感覚をすぐに振り払い、魔物を打ち倒す。

 

 そして、最後の魔物を打ち倒し、魔王の間へと足を踏み入れた。

 

『案外…早かったな…』

 

 玉座に腰掛ける魔王。

 

『もう少し…時間がかかるかと思ったぞ…』

 

 彼に魔王と交わす言葉は無い。

 

 魔王との距離はおよそ30メートル。

 

 鍛え抜いた彼ならば、一瞬でその距離を詰めることが出来た。

 

『まぁ、待て』

 

 今にも斬りかかろうとした彼を片手を上げ、制する魔王。

 

『お前は何の為に戦う?』

 

 戦う理由。

 

 それはただ1つ。

 

 この地を奪い返すこと。

 

『この戦いが終わったら何をする?』

 

 まるで彼の心を読んだかの様に魔王が続ける。

 

『お前が育った村に戻り、平穏に暮らすか?』

 

 彼の脳裏に南の土地にある、育った村の景色がよぎる。

 

『それとも我を打ち倒し、この地を再び人の地とするか?』

 

 そう、それこそが彼の目的。

 

 彼の剣を握る手に力が入る。

 

『なるほど…。お前1人でか?』

 

 魔王のその言葉に彼は一瞬の迷いが生じた。

 

『お前の帰りを待つ者はもういない』

 

 30メートルの距離を一瞬でゼロにして、彼は玉座に腰掛ける魔王に斬りかかった。

 

 だが、剣は空の玉座だけを斬り捨てる。

 

 彼の背後、およそ30メートルのところに佇む魔王。

 

『勘違いするな。手を下したのは我では無い』

 

 今の彼に魔王の言葉は入ってこない。

 

 剣を構え、再び魔王へ斬りかかるタイミングを見計らう。

 

『手を下したのはお前だ』

 

 一瞬、思考が止まる。

 

 しかし、思考を乱す嘘と彼は判断する。

 

『この城に入って、何体の魔物を倒した?』

 

 音を置き去りに、斬りかかる彼の一撃を魔王は苦も無く躱す。

 

『その魔物に…見覚えは無かったか…?』

 

 その一言に彼はハッとした。

 

 そして、一瞬の隙に振るっていた剣は弾かれ、遠く離れた壁に突き刺さる。

 

『お前が城に入って最初に倒したのはお前の村の長だった』

 

 剣を失っても彼の戦意は衰えない。

 

 ここに辿り着くまで、剣が通じない魔物はいた。

 

『大きな時計のある広間にいた、小さくて複数体のは村の子供たちだった』

 

 拳を握り、魔王との距離を詰める。

 

 剣が無くとも魔物たちと戦えるように、と鍛えた拳を振るう。

 

『本棚だらけの部屋の2体はお前の両親だった』

 

 大木を割る拳は無駄なく魔王に向かって放たれる。

 

 しかし、風に揺れる柳の様に魔王には当たらない。

 

『そしてこの部屋の前にいた魔物』

 

 魔王は懐に手を入れる。

 

『お前の幼馴染だ』

 

 そして、懐から彼がとても見覚えのあるリボンを取り出した。

 

 それは彼の幼馴染が付けていたリボン。

 

『見覚えがあるだろう?』

 

 それは彼の心の折るのに十分だった。

 

 彼の拳が緩んだ隙。

 

 魔王はそれを見逃さない。

 

 一瞬で彼の首を捕らえる。

 

 そして。

 

―――

 

 彼の冒険はここで終わり。

 

 玉座に座った魔王。

 

 鼻歌を歌いながら、魔王は彼の頭を撫でた。

 

 首だけとなった彼の頭を。